低脂肪資本主義
バーバラ・アーレンライク
上流階級が爪を噛むのは株が暴落したときばかりではない。ここ数週間豊かな人たちの自尊心の中核だった低脂肪、高炭水化物食がその信用を失墜した。
貪欲がブルジョワの第一の悪徳とすれば、低脂肪食はそれを均衡に保つ最大の徳ともいえる。例えば、 帳簿を 台無しにし会社の資産を食い荒らしたCEO達は、卵2個をゆったりと薄いベーコンとハッシュ・ブラウンの朝食で一日を始めていなかった。そう、このような犯罪は、バターを塗っていないロ-ファットのマフィンや薄いメロンのスライスが油を注いだに違いない。脂は貧乏人のものなのだ。
と ころが、7月7日のニューヨークタイムスの特集記事が伝えるように、ローファットの生き方でスリムになったり心臓病に強くなるなどという教義を支持するも のなど一つもなかったのだ。実際にはアメリカ人の肥満の蔓延は80年代の低脂肪クッキー、ケーキ、ポテトチップス、冷凍食品を引き連れた反脂肪ー教義の登 場と全く同時に起きている。何百万ものアメリカ人が、飾り気のない炭水化物(カーボ)の罪のない(guilt-free)ご馳走を貪って特に健康クラブの会員や楕円形のトレーニング機が買えない層に道理に合わない衰弱してしまうこともある結果を招いている。
私 はこの調査結果を自分の科学研究で確認している。その正確な例が私自身とジェーン・ブロディのケースだ。ジェーンは、件のニューヨークタイムス誌の健康コ ラムニストで野菜と澱粉以外の食べ物をこよなく否定する人だ。「過剰な蛋白摂取が肝臓、腎臓、骨をだめにする」、「炭水化物が体重を減らす」とか「脂より も添加物のほうが安全」といった特別記事を80年代からずっと書いて低脂肪な生き方を大衆に普及してきたのは誰よりもブロディだった。
1999 年に公にしたように、ブロディは「粗引きの小麦、オートミール、チャラー、ユダヤのライ麦、ベーグル」の高カーボ、ローファット食で育てられ、ベーグルも お決まりのクリームチーズを塗っていない潔癖なものに違いない。私はといえば、イヌイットさえ胆のうを傷めかねない食事で育てられた。朝は毎日卵とベーコ ンかソーセージ、昼は肉、そして夜も肉で必ず肉汁か少なくとも鍋の汁が付いた。ブロッコリーでもチョコレートケーキでも何でもバターを塗った。バターと-バタ-の間が引きずらなければバターにもバターを塗った。
で は、食事が全く異なる子供時代を過ごしたブロディと私はどう成長しただろうか。彼女は、自身認めるところでは20歳には紛れもなく丸々と太っていたーたっ たの5フィートなのに14サイズだった。私はといえば5フィート7インチでヒョロヒョロで木の枝のような110ポンドだった。
現 在まで早送りすると;ブロディはたとえそれが計画的運動表によるとしても当然見事にほっそりしていると考えるべきだろう。さもなければ自分自身がロー ファット教義を奨励するはずがない。私はといえば、チョコレートケーキにはバターはつけない、というのもブロディの疲れ知らずの説教のせいもあるかもしれ ない。ただ彼女が勧める脂の量は大匙一杯/日では私にはサラダにも足りないしクラッカー一枚にだって足りない。私にとってパンはバターを乗せるための物で あり、鶏肉は肉汁、冷たいときはマヨネーズの言い訳なのだ。その結果はどうか。私はサイズ6でコレステロール値はかつてうらやましそうな医者が「低すぎ る」と非難したことがある値だ。一件落着!
そ れでも納得行かないのなら、バリーゼアス博士がいる。かれは、高蛋白「ゾーン」ダイエットの発明者でありなぜ低脂肪、高カーボダイエットが実際には太るの かということを確たる医学的説明があると何年も言い続けている人だ。カーボの食事特に砂糖と精製粉でできたものは、血糖値が食後直に急上昇する。これに対 してインシュリンが分泌され血糖値が急にがたっと落ちて頭がおかしくなり気短になったり頭痛がしたりする、そして間違いなく食べる前より腹が減っている。 脂肪やたんぱく質はそれなりの量を摂取すれば当然ながら太る原因になるが、少なくとも食べ物が入ったときに確かに食べたという感覚は与えてくれる。
私たちは、何十年も全員が間違った方向に導かれてきた。脂肪とたんぱく質を敢えて推奨したダイエットにその名を冠したアトキンズ博士のような人達はヤブ医者で公衆衛生の敵と烙印された。
だが、豊かな層を嬉しがらせる中心教義が危機に直面しているときには事実は重要ではないらしい。ここ数十年、低脂肪な生き方は、白パンの代わりに全粒パン、ポリエステルの代わりに自然な繊維とともに社会的地位の重要な指標になっている。これを疑う向きは、脂=greaseの”greaser”(へつらう者)や”greasy spoon(不潔な食堂、薄汚い安食堂)といった使われ方を見るが良い。私が知っている栄養学的に「正しい」中流階級の上に属する人々には、昼食にフランスパンとパスタ、続いて何も付いていないクラッカーが長い間良い客のもてなしと考えられてきた。当然バターを求めてはいけない。
低脂肪教義が批判に特に強かったのは、低脂肪が上層階級の徳を代表するもので、脂が長い間下層特有のものと思われてきた我がままと結びついていたためだ。低脂肪はある意味貪欲の裏面でもある。アメリカのピューリタニズム(清教徒思想)と たぶんちょっぴりの民主的理想主義が浸透しているおかげで、誰もが物質的に豊かになりたがったが、「成金」にはなりたくなかった。我々は、地球の資源を掘 り漁り、世界の労働者階級をいじめているかもしれないが、、少なくとも人類の太古の脂渇望には耽っていない、と富める者は言いいそうだ。だから、低脂肪食 は毛皮のコートの下に羽織った硬い毛織のシャツともいえ際限のない欲望を相殺する日常の剥奪だった。
ジェー ン・ブロディがここ数年は金融界のペテンだとまでいうつもりはないが、明らかにつながりがある。低脂肪、低蛋白食の長期的影響は、簡単に想像できる;絶え 間ない満ち足りない思い、容赦のないもっともっとという身を裂くような渇望である。疑いもなく、低脂肪、高収入の人々にとっていかに十分ではないといえお 金が食事の脂の代わりとなった。影響は当然のことながらシリコンバレーで最も強く現れドット・コム・マニアが北カリフォルニア、バークレィに拠点を持つカーボカルト(炭水化物カルト)と破壊的なまでの衝突をした。90年代のあの「分けの分らない繁栄」は、実は専門店のマフィンと1斤5ドルの芸術パンを食べることによって誘発された低血糖の眩暈だったのだ。
これを書いている間、株式市場はブロディ愛用のサツマイモで食事を取った後の血糖値よりも急速に落ち込んでいる。いつも自分より不運な層を独善的に嘲笑しながらたくさん儲けてたくさん使い、賭けたり取引したりといった狂乱を最終的に終わらせる絶好のチャンスがある。
食品ピラミッドをひっくり返せるなら、社会経済のヒエラルキー(身分階層)もひっくり返せるだろう。少なくとも階層トップの豚は彼らの主たる哲学的推進力の一つを失った。
自 分の財産が露と消えるのを見ている脂不足のヤッピーに対する私のアドバイスはこうだ;マーケットから休憩を取って外に行きベーコン・チーズバーガーとフラ イドポテトを食べなさい、少し使える金が残っているならパンチェッタがたくさん入ったスパゲッティ・カルボナーラを食べなさい。最後のひとかけらまで。そ して、背もたれに体をあずけて、あごから脂を滴らしながら周りの人を見回し、生まれて初めてかもしれない腹一杯食べる満足感を味わいなさい。
バーバラ・アーレンライクは、The Progressive のコラムニストで Nickel and Dimed: On (Not) Getting By in America (Metropolitan Books, 2001).の著者。低脂肪資本主義” は、The Progressive, August 20, 2002に掲載。この文書は、 The Progressive, 409 E. Main Street, Madison, WI 53703, www.progressive.org. の許可を得て掲載。
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